Columnコラム

2024.01.31

【女性デザイナーが解説】印刷と特殊加工で魅せる!紙ものデザイン

 

 

新聞や雑誌、書籍やパンフレットなど、情報が紙に印刷された紙媒体。
日常生活でも、さまざまな種類の紙媒体を何気なく手にされていることでしょう。

 

しかし、ここ10年ほどの間にスマホやタブレットなどのデジタルデバイスが急速に普及し、情報のデジタル化は進む一方。特に若者ほど従来の新聞や書籍ではなくニュースサイトや電子書籍を利用する傾向にありますし、広告においても、折込チラシやポスティングに代わり、SNSを活用したデジタルマーケティングが主流となっています。仕事の場面でも「ペーパーレス化」という言葉が示すように、契約書やマニュアル、各種資料は紙に出力するのではなくデータで管理するなど、「紙媒体からデジタルメディアへ」という流れに。

 

2000年初頭からの年賀はがき発行枚数の推移を示したデータによると、2003年の44億枚をピークに、2023年の発行枚数はなんと14億枚。この20年間で年賀はがきの発行枚数が1/3にまで減少するなど、あらゆるシーンで紙媒体によるコミュニケーションは減少の一途を辿っています。

 

 

それでも、紙媒体ならではの表現方法や伝えられることなどメリットは多く、今後どれだけデジタル化が進んでも、 全ての紙媒体がデジタルメディアに完全に置き換えられてしまうことはないでしょう。今回は、長い間人々の情報伝達を支えてきた「紙」と「印刷」について、深掘りし解説します。

 

 

紙と印刷の歴史

 

人間が言語でコミュニケーションを取るようになったのが、今から10万年~8万年前。
そこから時を経て紀元前3000年頃、モノそものの形を表す「絵文字」から始まり、古代メソポタミアで「楔形文字」が生まれ、各地に普及していきます。(諸説あり) 文字の誕生により、それまでは直接話すことしか方法がなかったコミュニケーションが画期的に変化。文字を何かに書き写すことで、遠くの人やさらには未来の人にまで情報を伝えられるようになったのです。

 

「文字を何かに書き写すこと」。これこそが、印刷技術のはじまりです。
紀元前4000年頃のバビロニアでは、文字を粘土板に楔で刻みつけ天日で乾燥させ記録した粘土板文書が用いられていました。この頃の時代では、粘土板の他にも亀の甲、獣の骨、石、粘土板、ヤシの葉など、多様な書写材料が使用されていたようです。

その後、古代エジプトでは草の茎を割いて張り合わせ、薄く伸ばして乾燥させた「パピルス」が誕生し、文字を記録する媒体として広く普及。しばらくの間、パピルスは記録媒体として主流でしたが、6世紀ごろのローマで、羊の皮を石灰水でなめした「羊皮紙」が用いられるようになると、耐久性の高さや発色の美しさから、パピルスに変わり聖書や冊子本などに積極的に使われるようになりました。

 

現代につながる「紙」が発明されたのは、紀元前2世紀頃の中国。この頃の中国では、書写材料として木簡や竹簡、絹などが使用されていましたが、非常に使い勝手が悪かったそう。当時の皇帝の命を受け、使い勝手の良い書写材料の開発に試行錯誤した結果、木の皮や麻などの植物繊維を砕き、漉くという手法を発明し、現代につながる紙が誕生しました。

 

こうして「紙」が誕生したことで、さまざまな印刷手法が開発されていきます。
印刷の概念とは、「インクのついた版を紙に押し付けて、インクを写す」こと。小さな頃に遊んだ「野菜スタンプ」や、小学校の図工で習った「版画」、今となっては昭和の懐かしいモノのひとつでもある「プリントごっこ」なども同じ仕組みです。

現代では、印刷手法は主に以下の5つに分類されますが、その基となる基礎的な手法「木版印刷と活版印刷」。それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

 

印刷の四大方式

 

木の版を用いる古来からの印刷手法「木版印刷」

「木版印刷」は凸版に分類され、木の板を版に用いる世界的にも古くから続く印刷方法です。
着色される部分を残して周囲を彫った版木にインクを乗せ、摺ることで紙にインクを写します。「版画」として小学校の図工の教科でも登場するなど、日本人にとって木版印刷は馴染み深い手法。8~9世紀頃に中国で仏教経典を効率的に作るために発明された木版印刷は、その後世界中に伝搬し、日本には飛鳥時代に伝えられます。770年に法隆寺に納められた仏教経典「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」が、木版印刷を用いた現存する印刷物の中で世界最古とされています。

 

ヨーロッパで発明された活字組版の「活版印刷」

「活版印刷」とは、活字と呼ばれる文字のパーツを並べた活字組版を使った印刷方法です。
活字の凸部分にインキをつけ、上から紙を押し当て、インクを紙に写します。15世紀にドイツのヨハネス・グーテンベルクにより発明された活版印刷はヨーロッパ社会の近代化に寄与し、火薬、羅針盤と並んで、ルネッサンス期の3大発明といわれています。日本には16世紀頃に活版印刷の技術が伝えられましたが、当時の日本では押絵が入った本が人気だったことや、漢字とひらがなとカタカナを組み合わせるため活字の種類が多すぎた点、また草書体で書かれていることが多く活字にできないなどの理由からなかなか定着せず、日本では長い間木版印刷が用いられてきました。

 

活字組版を使った「凸版」の他にもさまざまな印刷技術が開発され、版の凹みにインキを詰めて刷る「凹版」、版に開けた穴にインキを通して刷る「孔版」、水と油の反発を利用して凹凸のない平たい版で刷る「平版」が誕生し、全世界に広まりました。この「凸版」「 凹版」「孔版」「平版」が印刷の四大方式として長らく定着していましたが、1980年以降、デジタルデータから直接紙に出力するデジタル印刷が登場。それまでの印刷手法と異なり「版」を作る必要がないので、より手軽に、早く印刷することが可能となりました。それまで専門的な設備が必要だった「印刷」ですが、デジタル印刷の登場により、家庭用のプリンターなどが急速に普及し、印刷がより身近なものになりました。
では、現代主流となっている印刷手法について、説明していきましょう。

 

凸版印刷

 

版の凸部分にインキを乗せて圧力をかけて紙に転写するため輪郭がはっきり表現され、力強くシャープな文字を印刷することが可能。圧力をかけることにより生じる輪郭部分のインクの溜まり(マージナルゾーン)が特徴。新聞や文字中心の雑誌本文、書籍やビジネスフォーム、名刺、シール、ダンボールなどの印刷に向いており、お札の印刷にも凸版印刷が用いられています。

 

お札の画像引用元:https://chiiden.com/panorama/macro/1000yen/

 

凹版印刷

凸版印刷とは逆に、版に凹みを作ってインクを流し込み、紙やフイルムに印刷する手法です。この方式ではインクに厚みを持たせることができるために、高品質なカラー印刷が可能です。色表現の美しさから、凹版印刷は主に写真集、美術書、プラスチックフィルム、軟包装材料、建材などの印刷に用いられます。


平版印刷

平版印刷とは凸版や凹版と異なり、平らなままの版を使って印刷する方法です。印刷する画線部のみをインクに親和する油性にしておき、それ以外の部分には水をしみ込ませます。この状態でインクをつけると、水と油とが反発しあうことによってインクが残る部分と弾く部分ができ、色をつけたい部分のみへの印刷が可能となります。幅広く使われている印刷方式で、新聞・書籍などの出版印刷をはじめ、カレンダーやポスターなどの商業印刷といった紙への印刷が得意です。

 

孔版印刷

孔版印刷とは、版にインクを付けて印刷するのではなく、版自体に穴をあけそこからインクを擦りつける印刷方式です。スクリーン印刷とは、孔版印刷の一種で版にかつてはシルクを使っていたので、シルクスクリーンと呼ばれています。紙以外でも、プラスチックや合成樹脂、金属、布などあらゆる素材に対して印刷が可能。また、平面だけでなく曲面への印刷も可能で、汎用性の広い印刷手法といえます。



リソグラフ 画像引用元:https://ishipub-printing.com/

デジタル印刷

上記4つの印刷手法とは異なり、基本的に製版が不要。デジタルデータから直接情報を得ることで、印刷する部分にインクを吹きつけたりインクジェット方式)、トナー転写したりして印刷を行う手法です。
有版印刷では版が必要となるため、印刷枚数が少ないと割高になるというデメリットがありましたが、版を作る必要がないデジタル印刷は枚数が少なくてもコストを抑えることができる点が大きなメリットです。反対に、有版印刷と比較すると色の表現力がやや劣り、色ムラが発生するなど色の再現性が難しい点がデメリットと言えるでしょう。

 

 

紙媒体の魅力

紙媒体は、デジタル媒体と異なり実物として実際に触れることができる紙媒体は、触覚や視覚、さらには嗅覚までデザインすることが可能。紙の厚さや装丁など、アイデア次第で興味をひいたり、強く印象づけることができる点は、紙媒体ならではの大きな魅力です。 箔押し加工で高級感を出したり、和紙で風合いを表現したり、抜き加工で視覚的に訴えたり。近年では、香りをつけることで嗅覚を刺激するといった、五感に訴える手法もあります。


参考:SHARE THE JOY OF FLORAL
https://www.topawardsasia.com/winners/share-the-joy-of-floral

 

紙媒体のメリット

・視認性が良い
スクロールをして閲覧することが前提のデジタルメディアでは、情報の全体量を一目で把握することができません。紙媒体は情報掲載量に上限はありますが、一目で全体を捉えやすいため、何がどこにあるのかが判別しやすく、目的の情報を見つけやすいというメリットがあります。

・保管性・再読性が高い
紙のカタログやパンフレットは実物を手元で保管することができるので、好きなタイミングで何度でも目を通し安い傾向にあります。実際に手に取って閲覧するため記憶に残りやすく、デジタルメディアと比較すると記憶に残りやすいという傾向も。

・信頼性がある
新聞をはじめ、正しい情報を届けることが重要な媒体は紙であることが多いため、信頼性が高いとされています。契約時の重要事項を記載した書類は紙での交付が義務付けられていたり、公文書といわれるものも多くはの紙媒体への活字印刷です。インターネット自体の匿名性が高いため、情報の出自がわかりにくいなど情報に対する不安感を持つ方も多く、出どころがわかりやすい紙媒体の方が安心感を感じやすいのかもしれません。
また上等な紙に刷られたものは半永久に保存することができるとされていますから、記録性という点でも信頼があります。文献の中には、「印刷はすべての芸術を保存する芸術」と記されているものもあります。

 

楽しい特殊印刷

 

キラキラな印刷加工♢箔押し

特殊印刷加工の中でもポピュラーな箔押し加工。 印刷物の一部を、本物の金属感を感じさせるメタリックな色合いにしたい!そんな時に採用したい箔押し加工です。 箔押し加工の魅力は平面的なデザインを際立たせる華やかさと高級感。光沢のある箔をプラスした艶のある仕上がりは、人の目を惹きつけ強く印象に残すことができます。光の反射によって煌びやかさが増したり、素材の持つあたたかさが伝わり、存在感のある仕上がりに。

出典:Yu Heng Tea

https://yangfongming.com/YUHENG-TEA

 

出典:TOPAWARDS ASIA

https://www.topawardsasia.com/ja/winner-topawards/shochu-x

凸凹させる印刷加工♢エンボス加工

手触りで印象を残す、エンボス加工。凹凸を掘り込んだ金版でプレスすることにより紙そのものを凹凸にする技術です。色や箔を使わないため、紙の素材そのものの風合いや質感を際立たせ、さりげない表現で上品さや高級感が伝わります。

出典:UZU EYE OPENING LINER UZU MOTE MASCARATM UZU 38°C/99°F LIP TREATMENT & LIPSTICK

https://www.topawardsasia.com/winners/uzu

透明・半透明で魅せる♢特殊透かし加工

柄が透ける特殊加工。 ハート株式会社の特殊透かし加工「ワックスプラス」は紙を部分的に半透明にする特殊加工です。特殊なワックスプラス液を浸透させることで、紙を半透明化します。さまざまな紙の風合いや魅力を活かしつつ、文字や模様などを透かし込むことで、幅広い表現が可能になります。

出典:ワックスプラス(ハート株式会社)

https://www.waxplus.jp/waxplus/

抜き加工

抜き型を素材に押し当て、素材をさまざまな形状にカットする特殊加工です。 平打ち抜き機に形をセットし一枚ずつ型を抜くトムソン加工、大きなクッキー型のような刃物を使って製本後の本や大量の紙を重ねて抜くブッシュ ポンス加工、レーザー光線で細かい形を一枚ずつ焼き切るレーザー加工など、素材や目的に応じてさまざまな手法があります。


出典:Happy Kashishiki for Japanese Sweets

https://www.topawardsasia.com/winners/medetai

 

出典:UMESHU THE AMBER

https://www.topawardsasia.com/winners/umeshu-the-amber

Back to index

Contact制作のご依頼やその他ご相談など、
お気軽にお問合せください。