Column
2024.09.25
DESIGN
KNOWLEDGE
PCやスマホの画面、テレビの字幕、新聞、書籍に看板や交通標識。
私たちの日常生活には、たくさんの「文字」が溢れています。
普段は特に意識することなく、目にしている文字も
「フォント」に着目をすると実に奥深い世界が広がっています。
人に「個性」があるように、文字にもさまざまな表情や性格、そして役割があります。
今回は、デザインを語るには、避けては通れない「フォント」のお話。
グラフィックデザインやイラストをメインに活躍する女性デザイナーに、
フォントについてのあれこれを解説していただきます。
まずは、フォントの違いによって、受ける印象がどの程度異なるのか、見てみましょう。
こちらの二つの文字組は、アパレルブランドのコート&ジャケットの秋コレクションの告知です。
それぞれどのような印象を受けましたか?そしてどのようなブランドをイメージましたか?
同じタイトルテキスト、そして同じキャッチコピーを同じようにレイアウトしていますが、全く異なる印象を持つと思います。
左側は気品やしなやかさ、格調高い雰囲気が感じられ、女性的で柔らかいイメージです。
一方で右側はかっちりとしており、一画ごとに先端まで太く、力強い書体が特徴的。文字に強弱がないため、
現代的で洗練されたフラットなイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。
左側が女性的な印象に対し、右側はユニセックスな印象という視点もありますね。
このように、全く同じ素材を、同じレイアウトで配置しても、
使うフォント次第で受けてに与える印象が変わることがわかります。
フォントはデザインの方向性を左右する、大変重要な要素と言えるでしょう。
フォントが持つ特徴やその性質を理解し、ターゲットやデザインの目的にあわせて
適切なフォントを選ぶことで、デザインのレベルも格段にアップします。
フォント次第で、そのメッセージの伝わり方が変わると言っても過言ではありません。
そのために、まずはフォントの基礎知識についてお話しましょう。
多種多様な「フォント」を用いて作られたたくさんの看板デザイン。
フォントによって読みやすさや受ける印象、お店の個性など、イメージが大きく左右されます。
世の中には、数えきれないほどの多くのフォントが存在します。
同じようで少しずつ違う、フォント世界は実に複雑なのですが、その中でも、分類されたカテゴリーが存在しています。
私たちが日常的に使用する日本語のフォント(和文フォント)で代表的なカテゴリーは、「明朝系フォント」と「ゴシック系フォント」。
明朝体というと、書道の文字を思わせるため、落ち着きや信頼感のあるイメージ、伝統的、女性的、格式、気品やしなやかさ、
などのキーワードが思いつくのではないでしょうか。
対してゴシック体はカジュアルで親しみやすいイメージ、モダン、男性的、若者向け、力強さやインパクト、などのキーワードが挙げられますね。
なんとなくそれぞれの違いについて、イメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
明朝体、ゴシック体は、そのイメージの違いとともに、
それぞれ明確な役割を持っていることをご存知でしたか?まずはその違いや役割を詳しく解説していきましょう。
ウロコと呼ばれる三角形の山のある書体のことの全般を総称して「明朝体」と呼びます。
字型に「てん」「はね」「うろこ」があり、縦線が太く横線が細い、はねや払いに強弱があるなどの特徴があり、
ゴシック体と比べると文字に動きが感じられ、
全体的にすっきりとした印象を与えるフォントです。明朝という名称は「明王朝の書体」という意味があり、
明の時代に完成した中国由来の書体であると言われています。
筆で書いたような「はね」や「はらい」があり線が細いため、文字量が多くても圧迫感がありません。
そのため明朝体は可読性に優れ、読み手に負担を与えにくいとされています。
新聞、書籍、教科書といった比較的文字量の多い印刷物などの「本文書体」として使用されることが多いフォントです。
高精細なディスプレイ上で閲覧する場合も、ゴシック体より明朝体の方が読みやすくなるようです。
また、文字サイズを小さくした時にゴシック体より可読性が維持されるという特徴もあります。
細めの明朝体は繊細で上品なイメージがあり、より女性的な印象を与え、
逆に太いフォントであれば、男性的で古典的、信頼感など、やや固い印象を与えます。
ゴシック系フォントの特徴は、縦と横の線の太さが均一であること。
明朝体と比較すると、黒い面積が広く感じられるため、視認性に優れているとされています。
そのため、強調したい見出しや、遠くから見てもわかりやすい必要がある屋外の看板や道路の交通標識、
公共のサインなどはゴシック系のフォントが用いられています。
書籍などでも、本文書体は明朝系フォント、見出しやポイントはゴシック系フォントなどと使い分けることも多く、
ゴシック体フォントは、文章を読ませるの目的ではなく、強く印象をつけるためのデザインに多用されます。
一方で、パソコンやスマホなどのディスプレイ上で閲覧する場合、解像度が低いと線の細い部分がある明朝体では、文字がつぶれてしまって読みづらい場合がありますが、ゴシック系フォントは線の太さが一定のため、タイトルや見出しだけではなく、本文フォントに使用されることが多いです。
線の太さが均一なデザインのゴシック体は、親しみやすさ、安定感、カジュアル、フラットで現代的、
などフォントの太さによって見る人に与える印象が変わってきます。
太めのゴシック体は安定感があり、男性的で力強さを感じさせますが、逆に細くなると、洗練されたモダンなイメージとなり、
女性的な印象が感じられるようになります。
上記で説明した明朝系フォント・ゴシック系フォントの分類に当てはまらない書体も多数存在しています。
そのほかの書体についてはカテゴリー分けが難しいのですが、あえて分類すると以下の3つ。
また、最近では様々なデザインに、手書きフォントが用いられるようにもなっており、
フォントの世界はより多様化している印象です。
筆で書いた時の動きをフォントに強く反映した毛筆系書体。線の省略やつながりが特徴の草書体や文字の形を崩さず、読みやすくした楷書体、そして草書と楷書の二つの特徴を取り入れた行書体などがあります。
伝統や文化、上質感を演出できる毛筆フォントは、年賀状をはじめ挨拶状、
和の趣を感じさせるデザインなど、ポイントとして取り入れることがおすすめのフォントです。
江戸時代から特定の目的で使用され、寄席や相撲、歌舞伎の看板、印鑑などで見られる書体です。線画太く、力強い点が特徴で、はらいやハネなどの独特なデザインは、日本的なイメージを強めています。
文字がより目立つように、装飾性を強くした書体です。店名のサインや広告、POPなどで扱うことが多いですが、個性が強く一概に「読みやすい」とは言えないため、本文書体には適していません。
適切なフォントを選ぶには、構成する色々な要素を知り、個性や特徴を理解することが大切です。
文字のイメージを左右するポイントの一つとして、文字の「フトコロ」と「重心」の考え方があります。
『ふところ』とは文字の周りの空間、余白のこと。
ふところが広い文字、とは周りに余白が多い文字で、おおらかな優しい印象を与えます。
逆にふところが狭いと引き締まって保守的、古風などの印象をあたえる傾向にあります。
『重心』とは文字のバランスの中心のこと。
重心が文字のどの部分にきているかで、その印象が変わってきます。
重心が高い文字は品格や緊張感を持たせることができ、逆に重心が低い文字は安定感や親しみやすく、カジュアルな印象を与えます。
続いて、欧文フォントの特徴を解説します。
欧文フォントも和文フォントと同じく、その特徴から「ローマン体」「サンセリフ体」「その他のフォント」と大きく3つに分類ができます。
ローマン体の歴史は古代ローマ時代にまで遡ります。
古代ローマ時代、イタリアの“トラヤヌス帝の碑文に代表される石碑に掘られてた書体が、ローマン体の起源であると言われています。
15世紀ころ、活版印刷の普及とともに、手書き文字の書体を再現するための活字が製作されるようになり、ベネチアン・ローマン系と呼ばれる種類のセリフ体活字書体が生み出されました。現在では、これらの流れをくむ多様なデジタルフォントが数多く開発され、パソコンなどの情報機器で広く使われています。
ローマン体の特徴は「セリフ」と呼ばれる文字のストロークの端に爪状の装飾があることで、「セリフ体」とも呼ばれています。
「はね」や「とめ」のような特徴も同様で、和文フォントの明朝体にあたり、可読性に優れているため本文フォントに使用されることが多いです。明朝体と同じように、横幅の線の付け方やセリフの形によって異なった印象を与えることもできるため、用途も多様。
また、ローマン体の中でもセリフの形状によって、以下のように分類分けがされています。
・ブラケットセリフ (Bracketed Serif)/最もオーソドックスなセリフ体です。セリフのつなぎ目部分がゆったりとした曲線で描かれています。
・ヘアラインセリフ (Hairline Serif)/細い直線によるシャープなデザインのセリフ体です。装飾が目立たずモダンな印象を与えます。
・スラブセリフ (Slab Serif)/文字本体のストロークと同等の太さのセリフをもつ、視認性の高いセリフ体です。
そのほかにも、うろこ部分がシャープな三角形になった「ウェッジセリフ (wedge serif)」や、うろこを含む角部分に丸みを与えた「ラウンドセリフ (rounded serif)」なども。上記の分類において、強いセリフを持つスラブセリフのような書体は、本文フォントには不向きで見出しなど強調したい部分に適しています。
一方で「セリフ」を持たず、線幅が均等になるようデザインされた書体が「サンセリフ体」です。和文フォントのゴシック体に相当し、タイトルや見出しなど、大きなサイズで使用されることが多いフォント。機能的で幾何学的な構造を持つものから、柔らかい印象を与えるものまで様々です。
歴史の古いローマン体に比べ、サンセリフ体の誕生は19世紀前半と比較的新しい書体です。ポスターやチラシなど商業目的の見出し用の活字として登場しました。
和文フォントのゴシック体と同様に、小さい文字や遠くからでも認識がしやすいため、新聞や辞書の見出し、マニュアル、道路標識などに多く用いられています。
強い個性を感じさせない書体が多く、信頼感、正確さ、公式な感じが備わっているため、ロゴタイプとしても採用されることが多いフォントです。
中世当初の写本の文字を模したもので、活版印刷の初期に聖書などの宗教的な印刷物に用いられたフォントです。現代では、宗教的なテキストのみならず、その世界観を表す書体としても多用されています。
筆記用具で書いたような手書き風の書体です。伝統的なものから現代的なものまで、様々なスタイルがあります。書体は大文字だけで組むと読みにくく不自然なため、小文字と組み合わせて使うことが多いです。日本におけるデザインにおいては、本文など読ませる目的より、主にあしらいとしての役割の方が大きいと言えるでしょう。
和文フォントの装飾系と同様に、広告やPOPなどに使われ、見ることを重点においてデザインされたフォント。個性的な作りが特徴で、可読性・視認性には優れていないフォントも多数。
ローリーズファーム/2023スプリングコレクション
ゴシック体、サンセリフ体をメインにした構成で、カジュアルで親しみやすい印象。
シンプルなデザインは単調になりやすいのですが、文字の横組・縦組やウェイトを混在することで躍動感を与えています。
カラーのバランスも合わせ、ブランドイメージをうまくマッチしたサイトデザインです。
サロニア
ロゴマークに合わせてサンセリフ体とゴシック体をメインに構成。
ワンポイントに使用されているA1ゴシックの特徴は、線画の交差部分の墨だまり表現や、
要素の端々にわずかな角丸処理を加えていることで、温もりを感じさせる点。
女性向けの商品のため、力強さやクールさの中にも、女性らしさがうまく表現されています。
幾何学用をを含んだシンボルマークのフォルムを意識してデザイン。
モノトーンカラーのため、ブランドイメージと合致するシックで洗練された印象でありながら、
ワンポイントでカラーを入れることで抜け感が出ておしゃれな印象を加えています。
タラントン
明朝体と欧文書体をメインに構成されたデザイン。2000年前の碑文の流れを汲む書体「Cinze」は、
古典的、伝統的な世界観を表現しています。
また、細身のフォルムでセリフの先端がシャープでありながら、しなやかさも併せ持つ、
クラシカルで上質なブランドイメージを体現するフォントを採用しています。
ミュアイス
細身のゴシックをメインに構成。極限まで細くしたゴシック体は、華奢な少女のイメージ。
淡いトーンの配色のグラデーションで、ふんわりとした女性らしい上品さ、
可愛さと繊細さを同時に表現しています。
また、文字情報をおさえコンパクトにまとめることで、文字のジャンプ率を低くし、
余白を多く設けることで女性らしい上品さや繊細さが際立つデザインです。
上品でありながら可愛らしさもあり、ブランドコンセプトを見事に表現しています。
牛乳石鹸
丸ゴシック体をメインに構成。優しいイメージと親しみやすさが、
「人にも地球にも優しい」という商品のコンセプトと合致しています。
グリーンとホワイトのカラーバランスは、自然や清潔感を起草させ、
手書き感のあるイラストを散りばめることで、優しい空気感が流れるデザインです。
スナック・ミー
本文はゴシック体、メッセージ性の強いキャッチコピーは手書き文字で構成。
ゴシック体の中でも游ゴシックは柔らかい印象。ややふところが狭い漢字と、
伝統的なスタイルを持ったかなとの組み合わせが特徴です。
手書き文字は、直接語り掛けられているような親しみや臨場感を感じさせるため
メッセージ性を強める効果があります。
また、オリジナリティや柔らかい雰囲気を演出することも可能です。
奥深いフォントの世界、いかがでしたか?
フォントの特徴を知ることで、表現できる世界観がぐんと広がります。
また、一言で「女性向けデザイン」と言っても、
エレガントからキュート、クール、ナチュラル・・・とそのデザインは多種多様。
ターゲットやコンセプトをしっかりと理解し、
その目的やメッセージ性に合うフォントを選択することで
より「伝わる」「共感を呼ぶ」デザインを表現することができると思います。
記事監修
デザイナー&イラストレーター Yuko Iwao